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#07 ジャンプ・オア・フライ – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
結論から言えば、職員室は空振りだった。ユキの鼻の精度は前もって確認している。入り口から中を覗いた段階で何も匂いを感じなかったとしたら、そういうことだ。ここに、ユキの母親はいない。正直、大本命だった場所が不発に終わったことで、俺は一気に出鼻をくじかれた。鼻に頼っただけに。 -
#06 捜索開始 – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
「いってらっしゃいッス! デー……あっ、デートとかでは決してないんスけどデートみたいなカンジのやつを楽しんできてくださいッス!」「遅くならないうちに帰ってきてくだせぇ。腕によりをかけて夕飯を用意しておきやすから、スーさんも一緒に」 -
【アニメレビュー】泣きっぱなしの合従軍編を全力でオススメしたいので『キングダム』について語ってみた。
漫画やアニメにあまり興味がない人に対して、私は常々こう言い続けていました。『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編だけは見て! そして最近になって、次の一文が新しく追加されることになります。お願いだから『キングダム』の合従軍編も見て!! -
クリームソーダとホットココアによる午後の饗宴(短編小説 / 青春)
アイスを失ってしまったクリームソーダに、存在する意味はあるのだろうか。藍沢は、もはや緑色すぎる液体としか呼称できなくなってしまったそれをストローの先で軽く掻き回す。数種類のプレートランチが主に女性層に人気を博しているこのカフェ・ダイニングにおいて、そんな少年の姿は少なからず人の目を引いた。 -
今日、魂を拾った。(短編小説 / ミステリー)
今日、魂を拾った。一見すると、それはただの青いビー玉にしか見えなかったが、その中心に黒字で大きく「魂」と書かれてあったので、そうか、これは魂なのかと納得してポケットの中にしまった。家に戻り、自室の文机の上に魂を置く。転がってしまわないところを見ると、この机はちゃんと水平なようだ。さすがは年代物。 -
オガシロ(短編小説 / 現代ファンタジー)
ねえ、ご存じかしら? この辺りには尻尾が九本の白い狐が住んでいて、死に往くものの最期の願いを叶えてくださるんですって。それは、どんな願いでも? ええ、どんな願いでも。かわいい女の子たちが、公園だったか空き地だったかで、そんな噂話をしていたような気がする。ごくありふれた都市伝説。そう思っていた。――今、この瞬間までは。 -
#05 明日、デートするぞ – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
「ユキちゃああん、スーくうううん、おかえりなさいッス! あ~あ~あ~、よかったッス!!」元砂糖問屋を改装した旅館こしあんの風情ある引き戸は、俺たちが辿り着いたときには既に開け放たれていた。ユキと二人でこっそり中を覗くと、奥から両手をめいっぱい広げたノルさんが歓喜の声を上げながら突進してくる。 -
#04 また、しんじゃったんだって – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
おかあさんの、においがした。おひさまのような、おはなのような、ほんのりあまくて、やわらかいにおい。ずっとまえになくしてしまった、あるはずのないにおい。だから、はしった。にほんのあしはおそすぎるから、よんほんのあしではしった。あたまのなかと、まわりのけしきが、まっしろなまま、はしった。 -
#03 おかあさんの、におい – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
半分寝ているユキの手を引きながら、ようやく倉敷川を臨むメインストリートまでやってきた。昼間は観光客を乗せて大活躍している川舟の姿はなく、柳並木の影と街灯の淡い光が水面で静かに揺れている。初夏とは思えないほど涼しい風が、どこかの店先の香ばしい匂いを運んでくるが、既に極上の料理で存分に胃袋を満たしている俺に、その誘いは通じない。 -
#02 狐し庵は、今日も騒がしい – おこもり奇譚(長編小説 / 現代ファンタジー)
「皆さん、お疲れさまッス! いや~、今日もいい労働をしたッスね!」この日の最後の客を満面の笑顔で送り出すと、ノルさんは和帽子をすぽんと外し、その勢いで大きく伸びをした。長めの金髪の隙間から覗く尖り気味の耳は、今日も数えきれないほどのピアスに噛みつかれている。
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